花酒は、日本最西端の与那国島でだけ造られている60度の蒸留酒である。原料も造り方も泡盛とまったく同じでありながら、度数が高いために酒税法上の扱いが泡盛と分かれる。この「扱いの分かれ方」は蔵の公式説明でも表現が揺れている部分なので、このページでは酒税法の条文と国税庁の地理的表示の生産基準にあたって、どこがどう分かれるのかを順に確認する。
花酒を造っているのは与那国島の3蔵だけ
花酒を造っているのは、沖縄県八重山郡与那国町にある崎元酒造所・どなん酒造(国泉泡盛)・入波平酒造の3つの酒造所である。
崎元酒造所の公式サイトは、花酒をこう説明している。
花酒は日本最西端の島、与那国島だけで製造されている独特の蒸留酒(スピリッツ)です。(花酒は泡盛とまったく同じ原材料と製造法ですが、アルコール度数が45度を超える場合は税法上スピリッツとなります。)
出典:崎元酒造所 公式「花酒について」
どなん酒造の公式サイトは、製法の側から次のように書いている。
人口添加物を一切使わず、製麹をはじめ瓶詰め作業まで杜氏が手作りで泡盛の醸造を行っています。なかでもよく知られているのが、アルコール度数60度の「花酒」で、もろみを蒸留して最初に出て来る初留液のことで、与那国の特産品にもなっています。
出典:どなん酒造(国泉泡盛合名会社)公式
つまり花酒とは、泡盛と同じもろみを蒸留し、最初に出てくる度数の高い部分(初留液)を取ったものである。
名前の由来は「泡の盛り具合」
「花酒」という名前の由来については、崎元酒造所の公式サイトに記述がある。
花酒の名称は昔、泡盛の度数を計る時にある一定の高さからグラスの中にお酒を注ぎグラスの中にできる泡の盛り具合(量)で度数を決めていましたが度数の高い花酒は一番泡の量が多く、まるで花が咲き誇っているように見えた事から花酒と呼ばれるようになりました。
出典:崎元酒造所 公式「花酒について」
泡盛という呼び名そのものが泡の盛り具合に由来するとされることを踏まえると、花酒はその延長線上にある名前ということになる。
酒税法上の品目は「原料用アルコール」
ここが花酒のいちばん誤解されやすいところである。結論から書くと、酒税法の条文にあてはめた場合、花酒の品目は「原料用アルコール」になる。
条文を並べる
十七 原料用アルコール 第九号又は第十号の規定(アルコール分に関する規定を除く。)に該当する酒類(水以外の物品を加えたものを除く。)でアルコール分が四十五度を超えるものをいう。
出典:酒税法 第3条第17号
二十 スピリッツ 第七号から前号までに掲げる酒類以外の酒類でエキス分が二度未満のものをいう。
出典:酒税法 第3条第20号
この2つを突き合わせるとどうなるか
- 泡盛は酒税法第3条第10号の単式蒸留焼酎にあたる。ただし同号は「アルコール分が四十五度以下のもの」と定めているため、60度の花酒はこの号に収まらない。
- 第17号の原料用アルコールは、「第十号の規定(アルコール分に関する規定を除く。)に該当する」酒類で45度を超えるもの、と定義されている。花酒はまさにこれに該当する。
- 第20号のスピリッツは「第七号から前号までに掲げる酒類以外」という残余カテゴリである。花酒は先行する第17号で拾われるため、定義上スピリッツには落ちない。
なお、原料用アルコールもスピリッツも、大分類としてはどちらも酒税法第3条第5号の「蒸留酒類」に含まれる。
裏付け — 国税庁が花酒をどう扱っているか
地理的表示「琉球」の生産基準の「4 酒類の品目に関する事項」には、こう書かれている。
単式蒸留焼酎、原料用アルコール
出典:国税庁「地理的表示『琉球』の生産基準」
国税庁が、花酒を含めるにあたって「スピリッツ」ではなく「原料用アルコール」を品目として並べている点が決定的である。
蔵の公式説明との食い違いについて。上に引用したとおり、崎元酒造所の公式サイトは「税法上スピリッツとなります」と説明している。条文にそのままあてはめると品目は原料用アルコールになるが、これは「スピリッツ類=蒸留酒の総称」という広義の慣用表現と考えられる。花酒が度数の高さゆえに単式蒸留焼酎の枠から外れる、という説明の中身そのものは食い違っていない。
本サイトでは、条文と国税庁の生産基準に沿って「酒税法上の品目は原料用アルコール(第3条第17号)」と記載する。
それでもラベルに「泡盛」と書ける根拠
品目が単式蒸留焼酎ではないのに、花酒のラベルには「泡盛」と表示されている。これは例外表示が認められているためで、根拠は組合規則11の5(法令解釈通達86の5-2(1)イ)の例外表示表にある。
原料用アルコール|米こうじ(黒こうじ菌を用いたものに限る。)及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの(水以外の物品を加えたものを除く。)|泡盛
出典:国税庁 酒税法における酒類の分類・品目等に関する資料
つまり「泡盛」はもともと酒税法上の品目名ではなく、一定の条件を満たした酒類に認められた例外表示(慣熟呼称)である。同じ表の中で、品目が単式蒸留焼酎の場合と原料用アルコールの場合の両方に「泡盛」の表示が割り当てられている。だから花酒は、品目が原料用アルコールでありながらラベルに「泡盛」と書ける。
この行が例外表示表に追加された正確な改正年月日は、本サイトでは確認できていない。二次情報では複数の説が混在しており、裏取りができていないため書かない。
花酒が地理的表示「琉球」を名乗れるのは2020年から
地理的表示(GI)「琉球」は平成7年6月30日に指定された、産地の範囲を沖縄県とする表示である。その生産基準は改定されており、品目の欄に「原料用アルコール」が加わったのは令和2年9月14日の変更からである。
| 生産基準の版 | 4 酒類の品目に関する事項 |
|---|---|
| 平成30年2月27日 | 単式蒸留焼酎 |
| 令和2年9月14日(現行) | 単式蒸留焼酎、原料用アルコール |
裏を返せば、花酒がGI「琉球」を名乗れるようになったのはこの変更以降である。旧版では品目が単式蒸留焼酎しか挙げられておらず、45度を超える花酒は入っていなかった。
なお生産基準の原料・製法の条件は、米こうじが Aspergillus luchuensis に属する黒こうじ菌の生育したもののみであること、水は沖縄県内で採水した水のみであること、発酵と蒸留を沖縄県内で行うこと、貯蔵する場合も沖縄県内で行うこと、容器詰めも沖縄県内で行うことなどが定められている。
3蔵の花酒
各蔵の公式サイト・公式ECで確認できた花酒を挙げる。崎元酒造所とどなん酒造は自社ECに税込価格の記載があるが、入波平酒造は公式サイトが存在せず、価格は公開されていない。
崎元酒造所(合名会社崎元酒造所)
| 銘柄 | 度数 | 容量 | 公式価格(税込) |
|---|---|---|---|
| 花酒 与那国クバ巻 | 60 | 1800ml | ¥10,800 |
| 花酒 与那国 | 60 | 1800ml | ¥10,000 |
| 花酒 与那国 | 60 | 720ml | ¥4,100 |
| 花酒 与那国クバ巻 | 60 | 600ml | ¥4,000 |
| 花酒 与那国 | 60 | 600ml | ¥3,450 |
| 花酒 花織酒 | 60 | 500ml | ¥3,340 |
| 花酒 与那国ブルー | 60 | 500ml | ¥2,970 |
| 花酒 与那国クバ巻 | 60 | 360ml | ¥2,730 |
| 花酒 与那国 | 60 | 360ml | ¥2,310 |
| 花酒 与那国 | 60 | 180ml | ¥1,300 |
出典:崎元酒造所 自社EC(抜粋。上記以外の容量もある。全品目は公式ECを参照)
どなん酒造(国泉泡盛合名会社)
| 銘柄 | 度数 | 容量 | 公式価格(税込) |
|---|---|---|---|
| 花酒どなん60度クバ巻 | 60 | 1800ml | ¥12,280 |
| 花酒どなん60度 | 60 | 1800ml | ¥10,280 |
| 花酒どなん60度クバ巻 | 60 | 600ml | ¥3,900 |
| 花酒どなん60度 | 60 | 600ml | ¥3,400 |
| 長期熟成花酒「どなん59度」(2001年蒸留) | 59 | 720ml | ¥22,000 |
出典:どなん酒造 自社EC(600mlの2品と長期熟成花酒は確認時点でSOLD OUT表示)
長期熟成花酒「どなん59度」の熟成年数は、公式サイト内で記述が食い違っている(自社ECの表記と公式トップの表記が一致しない)。本サイトでは年数を採用せず、蒸留年(2001年)で表記する。
入波平酒造株式会社
入波平酒造は公式サイトが存在しない。以下は沖縄県酒造組合の公式情報によるもので、価格は公開されていない。
| 銘柄 | 度数 | 容量 | 古酒 |
|---|---|---|---|
| 舞富名60度 | 60 | 1800ml | — |
| 舞富名60度クバ巻 | 60 | 1800/600/360ml | — |
| 舞富名はなはな60度 | 60 | 720ml | — |
| 舞富名60度10年古酒 | 60 | 1800/720ml | 10年 |
| 舞富名60度20年古酒 | 60 | 1800ml | 20年 |
| 夢大陸 | 60 | 180ml | — |
出典:沖縄県酒造組合 公式(ラベル情報)
沖縄県酒造組合は、入波平酒造について「県内で唯一、花酒古酒造りを行っています」と記している。同組合によれば、同社は琉球王朝に献上した花酒が国王から絶賛されたという説話をヒントに、花酒古酒を再現しようと国泉泡盛から独立して設立された。花酒の製造量は全体の3割を占めるという。
花酒には「古酒」の公正競争規約が適用されない
泡盛の「古酒(クース)」表示は、泡盛の表示に関する公正競争規約によって定められている。現行規約では、古酒とは泡盛を3年以上貯蔵したものを指し、古酒と表示できるのは全量が古酒であるものに限られる。
ところが、この規約が定義する「泡盛」は、酒税法第3条第10号の単式蒸留焼酎に限定されている。
第2条 この規約で「泡盛」とは、酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第10号に規定する単式蒸留しようちゆうのうち、黒こうじ菌(白色変異株を除く。)を使用した米こうじと水を原料として発酵した一次もろみを単式蒸留機をもって蒸留したものをいう。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第2条第1項
前述のとおり、花酒は45度を超えるため第10号には収まらない。したがって花酒には、この公正競争規約の古酒ルールがそのまま適用されない。「舞富名60度10年古酒」のような表示が、泡盛の古酒表示規約に基づくものではない、ということである。
この空白を埋めるため、令和3年9月1日に新設された「高濃度泡盛協議会」が、同年9月4日に「全量が貯蔵3年以上で『古酒』と表示できる」という自主基準を制定した、と業界紙が報じている。ただし本サイトでは、協議会公式の資料による裏取りができていない。業界紙の報道として扱う。
泡盛側の古酒表示ルールについては、泡盛の「古酒」表示ルールで条文を追って解説している。
花酒と洗骨の儀礼
与那国島では、花酒は葬送の儀礼にも使われてきた。崎元酒造所の公式サイトには、次のような記述がある。
埋葬のときに花酒1.8Lを2本、墓に納める。7年後の洗骨の際に、そのうち1本で遺骨を清める。残る1本は7年ものの古酒となっており、故人を偲びながら飲む。酒が飲めない人は、薬として患部に塗る。
出典:崎元酒造所 公式
60度という度数は、単に強い酒を造ろうとした結果ではなく、長期の保存や消毒といった実用と結びついた文化のなかにある。
関連ページ
- 幻の泡盛「泡波」とは — 公式が示す価格と、手に入りにくい理由(同じ八重山の離島で造られる、入手しにくい泡盛)
- 泡盛の「古酒」表示ルール(公正競争規約の条文と、2013年改正で何が変わったか)
出典
- 崎元酒造所 公式「花酒について」
- 崎元酒造所 自社EC
- どなん酒造(国泉泡盛合名会社)公式
- どなん酒造 自社EC
- 沖縄県酒造組合 公式(酒造所一覧・ラベル情報)
- 酒税法(e-Gov 法令検索)
- 国税庁 地理的表示「琉球」生産基準(現行)
- 国税庁 地理的表示「琉球」生産基準(平成30年2月27日版)
- 国税庁 地理的表示「琉球」生産基準の変更内容(令和2年9月14日)
- 国税庁 酒類の分類・品目等に関する資料(例外表示表)
- 泡盛の表示に関する公正競争規約
- 泡盛新聞(高濃度泡盛協議会の自主基準・業界紙報道)
条文は原文をそのまま引用している。確認日は2026-08-30。 法令・規約は改正されることがあるため、最新の内容は各出典で確認していただきたい。