泡盛は焼酎の一種なのか、それとは別のお酒なのか。この問いは感覚では答えにくいが、法令の条文を読むとかなりはっきりした答えが出る。泡盛は酒税法上の分類でいえば「単式蒸留焼酎」に含まれ、その中で黒こうじ菌を使った米こうじと水だけを原料とするものが泡盛と呼ばれている。この記事では公正競争規約・酒税法・地理的表示「琉球」の生産基準を条文のまま引きながら、泡盛と一般的な焼酎の違いがどこに書かれているのかを確認する。
結論:泡盛は「単式蒸留焼酎」の一部で、違いは麹と仕込み方にある
先に結論を書いておく。
- 泡盛は酒税法上、品目「単式蒸留焼酎」に含まれる。「泡盛」という品目は酒税法に存在しない
- その単式蒸留焼酎のうち、黒こうじ菌を使った米こうじと水だけを原料として発酵させたものを単式蒸留機で蒸留したものが泡盛である
- したがって違いの中心は原料の穀物ではなく、こうじ菌の種類と米こうじだけで仕込む造り方(全麹仕込み)にある
以下、条文で確認する。
公正競争規約が定める「泡盛」(第2条第1項)
第2条 この規約で「泡盛」とは、酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第10号に規定する単式蒸留しようちゆうのうち、黒こうじ菌(白色変異株を除く。)を使用した米こうじと水を原料として発酵した一次もろみを単式蒸留機をもって蒸留したものをいう。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第2条第1項
短い条文だが、泡盛の要件がすべて入っている。
- 酒税法第3条第10号の単式蒸留焼酎であること(まず焼酎の枠の中にある)
- 黒こうじ菌を使用した米こうじであること(白色変異株は除かれる)
- 原料は米こうじと水。ほかの穀物や、こうじにしていない米を加える前提になっていない
- 一次もろみを蒸留する。つまり二次仕込みを行わない
- 単式蒸留機で蒸留する
「一次もろみ」という語がそのまま条文にあるのが重要で、これが後述する全麹仕込みと対応している。
酒税法 第3条第10号 — 全麹仕込みは「ロ」に当たる
十 単式蒸留焼酎 次に掲げる酒類(…)でアルコール分が四十五度以下のものをいう。
ロ 穀類のこうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの
出典:酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第10号
泡盛はこの「ロ」に該当する。原料として挙げられているのは「穀類のこうじ及び水」だけで、こうじにしていない穀物は入っていない。これが全麹仕込みと呼ばれる造り方だ。米そのものを後から加えず、原料米をすべて米こうじにしてから仕込む。
また、単式蒸留焼酎はアルコール分45度以下と定められている。45度を超えるものは同じ造りでも別の品目になる。
泡盛と一般的な焼酎の比較
| 項目 | 泡盛 | 一般的な焼酎 |
|---|---|---|
| 原料 | タイ米(長粒種のインディカ米) | 米・芋・麦など |
| こうじ菌 | 黒こうじ菌のみ | 白こうじ菌・黄こうじ菌など |
| 仕込み | 全麹仕込み(一次仕込のみ) | 二次仕込 |
| 蒸留 | 単式蒸留機 | 単式蒸留機 |
蒸留方法は同じで、分かれ目はこうじ菌と仕込み工程にある。一般的な焼酎は米や麦のこうじで一次もろみを造ったあと、芋や麦といった主原料を加えて二次もろみにするが、泡盛は一次もろみをそのまま蒸留する。
原料米について補足しておく。上の条文が定めているのは「黒こうじ菌を使用した米こうじと水」までで、米の品種や産地は法令・規約のいずれも定めていない。タイ米が使われるのは条文上の要件ではなく、実際の製造で広く用いられているためだ。
「泡盛」は品目名ではなく例外表示
酒類のラベルには品目を表示する義務があるが、そこに書かれる品目名は「泡盛」ではなく「単式蒸留焼酎」である。では「泡盛」という表記は何かというと、慣熟した呼称として認められた例外表示という位置づけになる(組合規則11の5/法令解釈通達86の5-2(1)イ)。
単式蒸留焼酎|米こうじ(黒こうじ菌を用いたものに限る。)及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの(水以外の物品を加えたものを除く。)|泡盛
出典:国税庁「酒類の表示に関するQ&A」掲載の例外表示一覧(左から 品目/酒類の内容/例外表示)
この表の読み方はこうだ。品目は「単式蒸留焼酎」だが、その内容が真ん中の欄の条件を満たすものは、品目名に代えて「泡盛」と表示してよい。括弧書きの「水以外の物品を加えたものを除く」という条件にも注意したい。
地理的表示(GI)「琉球」
もう一つ、泡盛には産地に関する制度がある。国税庁が指定する地理的表示「琉球」だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 琉球 |
| 産地の範囲 | 沖縄県 |
| 指定した日 | 平成7年6月30日(1995年6月30日) |
| 酒類区分 | 蒸留酒 |
| 管理機関 | GI琉球管理委員会(沖縄県酒造組合内) |
生産基準の原文はこうなっている。
イ 米こうじは Aspergillus luchuensis に属する黒こうじ菌の生育した米こうじのみを用いたものであること。
ロ 水に沖縄県内で採水した水のみを用いたものであること。
出典:国税庁 地理的表示「琉球」生産基準「2 酒類の原料及び製法に関する事項」(1) 原料
イ 沖縄県内で原料の発酵及び蒸留が行われていること。
ハ 製造工程上、貯蔵する場合は沖縄県内で行うこと。
ニ 消費者に引き渡すことを予定した容器に沖縄県内で詰めること。
出典:同 (2) 製法
ここでは黒こうじ菌が学名Aspergillus luchuensisで特定されている。また発酵・蒸留だけでなく、貯蔵も瓶詰めも沖縄県内で行うことが求められている点が特徴的だ。県外で瓶詰めしたものは「琉球」を名乗れない。
「仕次ぎ」は生産基準にも書かれている
GI「琉球」の生産基準には、古酒と仕次ぎの文化についての記述もある。
「琉球」には、蒸留後に年月をかけて熟成させる文化があり、3年以上貯蔵したものは「古酒(クース)」と呼ばれる。…産地ではこの特徴を利用し、「仕次ぎ」と呼ばれる消費者等が自ら「琉球」を古酒に育てる文化や技術も定着している。
出典:国税庁 地理的表示「琉球」生産基準
仕次ぎは、古い甕から酒を汲み出したぶんを次に古い甕から補い、順に若い酒で継ぎ足していく方法として知られている。ここで書かれているのは消費者自身が古酒に育てる文化としての仕次ぎで、商品の表示ルールとは別の話だ。
「3年以上貯蔵したものは古酒」という基準がどの条文にどう書かれているか、商品に「古酒」と表示するには何が必要かについては、泡盛の「古酒(クース)」は何年から? 公正競争規約の条文で確認するで条文を引きながら詳しく扱っている。
出典
- 泡盛の表示に関する公正競争規約/同施行規則(日本酒造組合中央会)
- 酒税法(昭和28年法律第6号)/e-Gov法令検索
- 酒類の表示に関するQ&A(国税庁)/品目の例外表示
- 酒類の地理的表示一覧(国税庁)
- 地理的表示「琉球」生産基準(国税庁)
条文は原文をそのまま引用している。確認日は2026-08-30。 法令・規約は改正されることがあるため、最新の内容は各出典で確認していただきたい。