泡盛の「古酒(クース)」は3年以上貯蔵したもの、というのはよく知られている。だがそれを定めているのが何という規約の第何条なのか、条文が実際にどう書かれているのか、いつから今の内容になったのかまで書いている解説は多くない。この記事では「泡盛の表示に関する公正競争規約」および同施行規則の条文原文を引きながら、現行ルール、2013年改正で何がどう変わったか、そして実際に売られている商品がその条文とどう対応しているかを確認する。
結論:3年以上貯蔵、かつ「全量が古酒」であること
泡盛の「古酒」表示は、業界の自主ルールである「泡盛の表示に関する公正競争規約」(および同施行規則)で定められている。現行の条件は次の2つだ。
- 泡盛を3年以上貯蔵したものであること(第2条第2項の定義)
- その商品の全量が古酒であること(第4条第1項第1号の表示条件)
この2つ目の「全量」が要点だ。3年以上寝かせた泡盛を新酒に混ぜた商品は、たとえ古酒の比率が高くても「古酒」とは表示できない。以下、条文をそのまま引きながら順に確認していく。
条文の用語は「熟成」ではなく「貯蔵」である。本記事では条文を引用する箇所では条文の語をそのまま使う。
「古酒」の定義(規約 第2条第2項)
2 この規約で「古酒」とは、泡盛を3年以上貯蔵したものをいう。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第2条第2項
定義自体はこの一文しかない。年数は3年、起算点や計算方法は別に施行規則で定められている(後述)。
「古酒」と表示できる条件(規約 第4条第1項第1号)
(1)古 酒
全量が古酒であるもの。
古酒の表示に代えて、クース又は貯蔵酒若しくは熟成酒と表示することができる。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第4条第1項第1号
ここから2つのことが読み取れる。
- 「古酒」を名乗れるのは全量古酒の商品だけ。一部でも新酒が入っていれば表示できない
- 「クース」「貯蔵酒」「熟成酒」は「古酒」の言い換えとして条文に明記されている。つまりラベルに「熟成酒」と書いてあれば、それも全量古酒でなければならない
改正前は「半分弱が新酒」でも古酒と名乗れた
現行の「全量が古酒であるもの」という一文は、2013年の規約変更で置き換わったものだ。改正前の条文はこうだった。
(1) 古 酒
全量を3年以上貯蔵したもの又は仕次ぎしたもので、3年以上貯蔵した泡盛が仕次ぎ後の泡盛の総量の50パーセントを超えるものでなければ古酒と表示してはならない。
古酒の表示に代えて、クース又は貯蔵酒若しくは熟成酒と表示することができる。
貯蔵年数を表示する場合は、年数未満は切り捨てるものとする。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約(改正前版)第4条第1項第1号
総量の比較方法も、改正前の施行規則に書かれていた。
第3条 規約第4条第1項第1号の貯蔵年数は、検定の日から起算し、販売のための容器に充填した日までの期間により計算する。また、仕次ぎ後の泡盛の総量比較はアルコール分の総量により計算する。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約施行規則(改正前版)第3条
つまり改正前は、3年以上貯蔵した泡盛がアルコール分の総量で50パーセントを超えていれば「古酒」と表示できた。裏を返せば半分弱が新酒でも「古酒」を名乗れたということになる。
| 項目 | 改正前 | 現行(2013年10月10日〜) |
|---|---|---|
| 「古酒」の定義条文 | なし(第4条の表示基準の中に直接書かれていた) | 第2条第2項に新設「泡盛を3年以上貯蔵したもの」 |
| 「古酒」と表示できる条件 | 全量を3年以上貯蔵したもの、または仕次ぎしたもので3年以上貯蔵した泡盛が総量の50パーセントを超えるもの | 全量が古酒であるもの |
| 新酒の混入 | 総量の50パーセント未満まで許容 | 不可 |
| 総量の計算方法 | アルコール分の総量により計算(施行規則第3条) | 規定なし(現行規約に「仕次ぎ」の語は登場しない) |
「51%以上」ではなく「50パーセントを超える」。改正前の基準を「51%以上」と紹介する報道があるが、条文の表現は「50パーセントを超える」である。50パーセントちょうどでは要件を満たさない、という書き方であり、本記事では条文の表現を採る。
施行は2013年10月10日。2015年8月1日は「完全適用」の日
この改正の日付は誤解されやすい。附則の原文はこうなっている。
1 この規約の変更は、公正取引委員会及び消費者庁長官の認定の告示があった日(平成25年10月10日)から施行する。
2 平成27年7月31日以前に販売容器に充填された泡盛の取引について行う表示は、なお従前の例によることができる。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 附則(施行規則の附則も同文)
整理すると次のようになる。
- 施行日は平成25年10月10日=2013年10月10日(認定の告示があった日)
- ただし附則2に経過措置があり、2015年7月31日以前に瓶詰めされた泡盛は従前の表示のままでよいとされた
- その経過措置が切れ、店頭のすべてが新基準に揃うのが2015年8月1日
この改正を「2015年施行」と説明している解説は少なくないが、附則の文言に照らすと正確ではない。2015年8月1日は施行日ではなく、経過措置が終わって完全適用になった日である。
厳格化に至った経緯としては、2012年に県内9酒造所の古酒の不当表示が発覚し、業界が信頼回復のために基準の厳格化を申請した、と報じられている(新聞報道による二次情報。ただし上記の附則の日付そのものは規約本文で確認できる)。
「10年古酒」は最低10年であって平均ではない(第4条第1項第2号)
貯蔵年数を表示する場合は、当該年数表示以上貯蔵したものとする。異なる貯蔵年数の古酒を混和した場合は、その割合にかかわらず、最も貯蔵年数の少ない古酒の年数を表示する。
貯蔵年数の年数未満は切り捨てて表示するものとする。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第4条第1項第2号
ここが実用上いちばん効いてくる条文だ。読み替えるとこうなる。
- 「10年古酒」と書いてあれば、中身はすべて10年以上貯蔵されている
- 複数の年数の古酒をブレンドした場合、表示するのは平均年数でも主体の年数でもなく、いちばん若い古酒の年数。比率は関係ない
- 端数は切り捨て。7年11か月貯蔵なら「7年」
つまり10年古酒と20年古酒を9対1で混ぜても、表示は「10年」になる。泡盛の年数表示は、控えめに振れる仕組みになっている。
貯蔵年数はいつから数えるのか(施行規則 第3条)
第3条 規約第4条第1項第2号の貯蔵年数は、検定の日から起算し、販売のための容器に充填した日までの期間により計算する。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約施行規則 第3条第1項
起算点は蒸留後の検定の日、終点は瓶詰めした日。したがって、瓶詰めしてから自宅の棚で寝かせた期間は年数に加算されない。ラベルの年数は「蔵で寝ていた期間」を指している。
混和酒(10%以上)とマイルド(25度以下)
古酒以外にも、第4条には表示に関する基準が並んでいる。
古酒を10パーセント以上混和したもので、かつ混和割合を表示しなければ混和酒である旨を表示してはならない。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第4条第1項第3号
「古酒混和」といった表示をするには、古酒が10パーセント以上入っていること、かつその混和割合を表示することの両方が必要だ、と読める。
アルコール分が25度以下のものでなければマイルドである旨の表示をしてはならない。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第4条第1項第4号
「マイルド」は感覚的な言葉に見えるが、規約では度数の基準がある。施行規則第4条第3項により、この「マイルド」には「ソフト」も含まれる。
産地表示(第4条第2項)
2 事業者は、泡盛の産地表示を行う場合には、当該地域において蒸留したものでなければ、地名その他当該地域の特徴等を表わす表示をしてはならない。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第4条第2項
施行規則によれば「地名その他当該地域の特徴等」には、地名・島名のほか、風物、建造物、生活様式、文化なども含まれる。島名や島の風物をラベルに掲げるなら、その地域で蒸留していることが前提になる。
実物で確認する:なぜこの商品は「古酒」と名乗っていないのか
条文だけでは実感が湧きにくいので、実際の商品で確認してみる。各蔵が公式に開示している古酒の割合と、商品名に「古酒」を使っているかどうかを並べたものが下の表だ。
| 商品 | 古酒の割合(公式表記) | 「古酒」と名乗っているか |
|---|---|---|
| ZANPA PREMIUM 35(比嘉酒造) | 5年古酒100% | ○ |
| 残波プレミアム30(比嘉酒造) | 甕貯蔵5年古酒を60%ブレンド | ×(名乗れない) |
| ZANPA 43(比嘉酒造) | 3年古酒を60%ブレンド | × |
| 琉球GOLD(新里酒造) | 古酒60%ブレンド | × |
| 黒真珠(八重泉酒造) | 古酒と新酒のブレンド・年数表示なし | × |
| 春雨5〜20年古酒(宮里酒造所) | 組合の泡盛データベースが「100%」と明記 | ○ |
| 沖之光 35度10年古酒(沖之光酒造) | 公式が「10年以上(100%)」と明記 | ○ |
ここで押さえたいのは、×の商品は規約を守っている証拠だということだ。古酒を60%使っていながら商品名に「古酒」を入れていないのは、第4条第1項第1号の「全量が古酒であるもの」に当たらないからで、各蔵はその線をきちんと引いている。改正前ならこれらは「古酒」と表示できた商品でもある。
逆に「古酒」「○年古酒」と名乗っている商品は、全量が古酒であることが前提になる。本DBが古酒のブレンド率や「100%」の明記を項目として持っているのは、この条文と商品表示の対応を追えるようにするためだ。
蔵が自ら「古酒100%」と明言している例
規約の要件をそのまま公式サイトに書いている蔵もある。
古酒は全量を3年間以上貯蔵熟成した古酒100%
出典:やんばる酒造株式会社 公式サイト
一般酒は飲みやすさを、古酒においては100%古酒であることを追及し続けています
出典:沖縄県酒造組合 公式サイト(池間酒造の紹介ページ)
いずれも第4条第1項第1号の「全量が古酒であるもの」を、蔵の言葉で言い換えたものになっている。
規約を運用しているのは誰か
第7条 この規約の実施機関は中央会とする。
出典:泡盛の表示に関する公正競争規約 第7条(第5条で「中央会」=日本酒造組合中央会と定義)
実施機関は日本酒造組合中央会である。公正競争規約の一覧でも、この規約は日本酒造組合中央会の管轄として掲載されている。
「泡盛公正取引協議会」という団体は存在しない。沖縄県酒造組合の中にあるのは地理的表示「琉球」を管理するGI琉球管理委員会であって、公正取引協議会ではない。
家庭の「仕次ぎ」は表示規約の対象外
改正前の条文には「仕次ぎ」の語があったが、現行規約に「仕次ぎ」の語は登場しない。改正前の施行規則にあった「仕次ぎ後の泡盛の総量比較はアルコール分の総量により計算する」という一文も削除され、現行の施行規則に残っているのは「検定の日から起算し、販売のための容器に充填した日まで」という年数計算だけだ。
この規約が対象にしているのは、あくまで事業者が商品に行う表示である。したがって消費者が家庭の甕で行う仕次ぎは、この表示規約の対象外ということになる。仕次ぎという文化そのものは、国税庁の地理的表示「琉球」の生産基準の中で言及されている。泡盛そのものの法令上の定義や、GI「琉球」については泡盛と焼酎は何が違うのか — 法令の定義で確認するで扱っている。
出典
- 泡盛の表示に関する公正競争規約/同施行規則(日本酒造組合中央会)
- 同 改正前版(Internet Archive 保存版・2012年取得)
- 公正競争規約一覧(全国公正取引協議会連合会)
- 公正競争規約が設定されている業種(消費者庁)
- 2012年の古酒表示に関する報道(琉球新報)※二次情報
- 有限会社比嘉酒造(残波)公式サイト
- 新里酒造株式会社 公式サイト
- 有限会社八重泉酒造 公式サイト
- 沖之光酒造合資会社 公式サイト
- やんばる酒造株式会社 公式サイト
- 沖縄県酒造組合 泡盛データベース
条文は原文をそのまま引用している。確認日は2026-08-30。 法令・規約は改正されることがあるため、最新の内容は各出典で確認していただきたい。